『SINGULAR POINT』

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 二階、三階の続きで美容室があり、若者に人気であった。そこのディスプレイに岩があり、それが落ちたものとされた。でも、岩があったのは室内で、どうして外に落ちたのかが分からない。  事故当時、店は満席であった。岩が消えた事は、店員の皆は気付いていなかった。  その時、この美容室の個室に太田常務の息子がいたという。 「個室は窓が嵌め殺しで、客は窓に向かって座っていました」  それでは、岩は落とせない。 「しかし、三階は個室ばかりなのですが、男性用のみ道路に面してトイレがあった。トイレの窓は開いた。しかも、女性用のトイレは、道の反対側でした」   その日というのか、殆どの個室は女性客だった。二名、三名で借り、喋りお茶をしながら髪をセットしていた。個室、男性は太田常務の息子だけであった。 「太田君は一人でしたか?」  柴田は首を振っていた。 「それが、三人。二人は女性だった」  太田常務の息子は、女装していて娘の姿で来ていた。担当した美容師は太田が、男だと知っていたが、他の美容師には言っていなかった。 「見てくださいよ、この写真。美少女」  一緒にいた二人は、太田が男だと知っていたが、遊び友達だったという。  太田は先に来ていて、髪の毛を染めようとしていた。そこに二人がやって来て、個室を借りているから一緒にお喋りしようと誘った。そこで、太田は三階に移動した。 「美容師も男性でしょう」 「この美容室、職員用のトイレがあって、そこですると決まっているのです」  トイレが、休憩室のようにもなっているらしい。 「亡くなった男性は教師とかですか?」 「そう。よく分かったね。高校の教師だったよ」  太田は、普段はちゃんと男の恰好をしていた。土日の大学が休みの時だけ、女装して出かけていたという。見かけは、本当に美少女だった。  俺は、事件解決だけが全てではないと思っている。きれいごとを抜かすと、この太田が何らかの恨みで、多分、咄嗟に岩を投げたと言う事だ。 「脅されていた」  太田は女装を隠してはいないが、高校時代は隠していた。その秘密を知られ、脅されていたという事もある。 「いいや、何か、もっと酷いかな」  もしかして、女装のきっかけになった人物ではないのか。その人物を、女装している時に見つけた。
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