207人が本棚に入れています
本棚に追加
/122ページ
でも、動機を抜かすと犯人は、太田しかいない。状況証拠だけなので、警察も事情を聞く程度しか出来ないであろう。そこで、太田が喋ってしまえば、捕まってしまう。
俺は正義が全てではない。
俺は部屋を出ると、宍戸に電話を掛けてみた。
「宍戸君、真実を教えて」
事情を説明すると、本当に宍戸が教えてくれた。
太田は犯人ではなく、担当した美容師が岩を投げたという。二人は付き合っていて、太田が下を歩いている男を見つけ、自分の初めてを脅して奪った男という告白を聞いた。
高校時代、化粧しているところを見つかり、親にバラすと脅されて、初めてを奪われたらしい。
激怒した美容師は、岩をトイレに隠し、機会を待っていた。
太田は犯人ではないが、影響は大きい。
「困ったね」
「では、二人には駆け落ちして貰いましょう。その後心中でいいでしょうかね」
宍戸は、本当に怖い。
「美容師だけ犯人にして」
「まあ、孝弘さんに免じて、やりましょう」
宍戸の声が冷たかった。
美容師が自首して事件は解決したかに思えたが、やはり、美容師の影に美少女などと報道されてしまった。
殺人犯ではなくなったが、女装癖というのは知られてしまった。
「氷花、どこに連絡していた?」
柴田に見られていた。
「あちこちだよ」
柴田が、俺を睨んでいた。
「……宗教家みたいな人にだよ。きっと、相談されているだろうなと思ってさ。相談されているのならば、太田君に影響の出ない形でカタをつけて貰おうかと思った」
でも、影響は出てしまった。
「まあ、どうにかしてくれたから、今日は深読みしないよ。今度、奢る」
容疑者の一人という、期間が短く済んだだけでも、かなり助かるという。
俺は、昼休みに遠見に相談してしまった。
「弥勒って何でしょうか?」
「どうも、一人ではないみたいよ。弥勒という、人を救うと目指した者が、集団で行動を始めた」
人の相談を聞き、アドバイスと助力、協力をして金をとる。
一人ではないのならば、石田の相手も弥勒であり、宍戸が弥勒でもおかしくはない。
「情報があったら、聞かせてね」
もしかして、遠見も弥勒ではないのか。疑い出したらきりがない。
その日は、行方と一緒に営業に行き、幾つか案件を得た。行方もだんだん上手になり、営業を活き活きとしている。
会社に戻り報告書を書いていると、川越の顔色が悪かった。
「飲み過ぎですか?」
最初のコメントを投稿しよう!