『SINGULAR POINT』

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 でも、動機を抜かすと犯人は、太田しかいない。状況証拠だけなので、警察も事情を聞く程度しか出来ないであろう。そこで、太田が喋ってしまえば、捕まってしまう。  俺は正義が全てではない。  俺は部屋を出ると、宍戸に電話を掛けてみた。 「宍戸君、真実を教えて」  事情を説明すると、本当に宍戸が教えてくれた。  太田は犯人ではなく、担当した美容師が岩を投げたという。二人は付き合っていて、太田が下を歩いている男を見つけ、自分の初めてを脅して奪った男という告白を聞いた。  高校時代、化粧しているところを見つかり、親にバラすと脅されて、初めてを奪われたらしい。  激怒した美容師は、岩をトイレに隠し、機会を待っていた。  太田は犯人ではないが、影響は大きい。 「困ったね」 「では、二人には駆け落ちして貰いましょう。その後心中でいいでしょうかね」  宍戸は、本当に怖い。 「美容師だけ犯人にして」 「まあ、孝弘さんに免じて、やりましょう」  宍戸の声が冷たかった。  美容師が自首して事件は解決したかに思えたが、やはり、美容師の影に美少女などと報道されてしまった。  殺人犯ではなくなったが、女装癖というのは知られてしまった。 「氷花、どこに連絡していた?」  柴田に見られていた。 「あちこちだよ」  柴田が、俺を睨んでいた。 「……宗教家みたいな人にだよ。きっと、相談されているだろうなと思ってさ。相談されているのならば、太田君に影響の出ない形でカタをつけて貰おうかと思った」  でも、影響は出てしまった。 「まあ、どうにかしてくれたから、今日は深読みしないよ。今度、奢る」  容疑者の一人という、期間が短く済んだだけでも、かなり助かるという。  俺は、昼休みに遠見に相談してしまった。 「弥勒って何でしょうか?」 「どうも、一人ではないみたいよ。弥勒という、人を救うと目指した者が、集団で行動を始めた」  人の相談を聞き、アドバイスと助力、協力をして金をとる。  一人ではないのならば、石田の相手も弥勒であり、宍戸が弥勒でもおかしくはない。 「情報があったら、聞かせてね」  もしかして、遠見も弥勒ではないのか。疑い出したらきりがない。  その日は、行方と一緒に営業に行き、幾つか案件を得た。行方もだんだん上手になり、営業を活き活きとしている。  会社に戻り報告書を書いていると、川越の顔色が悪かった。 「飲み過ぎですか?」
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