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「それもある」
淡谷が俺を睨んでいた。
「社長が戻ってきているのよ」
社長が出社すると、川越の具合が悪くなるのか。
「昨日、社長が帰ってきたのですか?」
川越の腰から、湿布の匂いがする。これは、飲み過ぎではなく、やり過ぎだろう。
「一昨日の土曜日……」
見てはいけないが、川越はきっちり座れずに、無意識に膝が開いている。姿勢のいい川越にしては珍しい。
では、やり過ぎではなく、やられた方なのか。
俺は、取引先の太田常務の件を報告する。
「影響度か、少し心配だね。まあ、他に報告もあるし行くか」
川越は起き上がると、社長室へと向かって行った。
川越がいなくなると、淡谷が熱湯でお茶を煎れてきた。
「深追いしないの」
淡谷も気付いているのか。
でもと、淡谷もため息をついていた。川越は、自分の身体を餌に、社長を宥めている。熱血漢で、正義の塊である社長は、ある意味、会社には危険な存在であった。見た目はいいし頭もいい、社員思いの社長なので、川越は諫めながらコントロールしている。
「川越さんは、身も心も会社に捧げているのか」
「そうなの。だから私がフォローについたの」
淡谷は、川越を守っていた。淡谷は妻とも連携していて、プライベートは妻が川越を守っている。
「淡谷さんも凄いね」
本当に、川越を理解している気がする。
報告書の受領を貰い、家に帰ると、事件はまだ続いていた。
亡くなった先生は、他の生徒も脅していて、あれこれ証言が出てきたのだ。女生徒も多く関係を迫られていた。
「酷い先生だな」
スーツを脱いで着替えると、夕食の準備をしようとする。すると、慶松が走って来て、今日は、野菜は止めてと懇願してきた。
「え、俺、三食、毎日野菜でもいいけど」
「今日は、魚があるだろ」
石田から貰った干物があった。
「そうか、焼いておく」
先に風呂に入り、再びテレビを見る。又、新しい事実が分かっていた。今度は美容師の方で、個室で何度か客とヤッていたというものであった。
だから、太田が男だと知っていたらしい。
「捜査って凄いな」
あること、ないこと言われてしまう。でも、すっかり太田の存在が忘れられている。
魚を焼くと、又、進展があった。美容師が取り調べ中に、トイレで首吊りしたという。
「又、自殺なのか……」
弥勒に関わると、皆、自殺してしまう。罪を償うといのは、死ではない。
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