第一章 人食いの箱

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 俺は箱を開けて、泥の残る野菜の匂いを嗅いでみた。 懐かしい感じがして、土が付いたまま野菜を齧ってみると、弾けるように汁が飛ぶ。 俺は涙を流しながら、野菜を生のまま食べてしまった。 俺が飢えていた味がそこにあった。  そこで俺は、田舎に就職した。 毎日、おいしい野菜を食べる、それだけの夢であったが、叶えた事が嬉しかった。  そして毎日、取れたての野菜を食べる……はずだった。 「本社でも頑張ってください。氷花(しが)さん」  たった、二年で転勤になるとは思わなかった。  どこで間違ったのか分からないが、 田舎の小さな営業所で、常に十人未満の社員数が心地よかったというのに、 今日は俺の送別会になっている。
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