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射干玉〈ぬばたま〉の夜話
1
「本当にここが魔物の住処か?」
若い王子は、魔法の灯りをともして洞窟内をくわしく調べている魔法使いに尋ねた。
「ごらんなさい」
一段低くなっている床の穴を照らして、魔法使いが言った。
覗いてみた王子は、ゴミ捨て場らしい一角をしばらく眺めていたが、やがてウッとうめいて口をおさえた。
真っ青になって飛び出していく。
調べを終えて魔法使いが出て行くと、王子は少し下った泉のほとりで座り込み、まだ青い顔であえぎ続けていた。
「・・・あれが・・・あれが・・・あれが・・・」
はあはあと息をついて、口もきけない。
「ここに来た目的、救出するはずの王女のなれの果てですね」
「たっ・・・たべちやったんだ!ひどいよ、そんなの!」
王子は青い眼に涙をためて叫んだ。
「僕が助け出して結婚を申し込むはずだったのに!
もう数少ないお金持ちの適齢期の王女が、また一人減ってしまったじゃないか!」
『魔物にさらわれた王女を救出した勇者に、彼女を妻として与える』
この地方最大の豊かな王国から、こんな布告が出されたので、名乗り出た勇者の卵は、実に三百人を超えた。
「こんなチャンスはまたとないわ。頑張るんですよ」
北の小さな王国で、年代物の旅行鞄に下着に寝間着、お弁当と、大事な息子の旅支度を整えながら、王妃は言った。
「魔物と戦うことなんて、僕にできるのでしょうか、母上」
王子は不安そうに尋ねた。
「この間の剣技の評価はCクラスだったんですけれど」
それも、教師にむちやくちゃ甘い点をつけてもらったのだ。
「大丈夫、あなた一人でそんな事出来るわけが無いのはわかっていますとも。
強力な助っ人を付けてあげますからね」
そう言うと王妃は、彼女の持参金の残りとこっそり貯めておいたへそくりで、王子のために名のある魔法使いを雇って、一緒に送り出してくれたのだった。
まだ若く、顔色の悪い青年は、魔法使いというより無口な家庭教師のような雰囲気をしていた。
しかし、腕の方は確かで、ダウジングロッドを使って魔物の跡を追いかけ、ひと月もかかって、やっとこの辺鄙な山奥の、切り立った崖の上にある、魔物の住処を訪ね当てたのだった。
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