鳴き続ける蝉

36/36
41人が本棚に入れています
本棚に追加
/76ページ
何故、おろしたの? 本当に子供を産みたくなかったの? 僕と結婚したくなかったの? 曖昧で秘密で、都合の良い『Lover』な関係でいることを優先したの? 心の中で渦巻く嫌悪感。 そのうち苦しそうに茉莉花がしゃっくりをし始めたから、僕はさすがに彼女の背中を撫でた。 すぐに僕の身体に縋り付いてくる茉莉花の手や腕に戸惑う。 僕は茉莉花のことを本当に分かることができるのだろうか。 本当に茉莉花をずっと好きでいられるのだろうか。 茉莉花はいつだって僕に秘め事をしたまま、これからも自分で決着をつけてしまうのだろうか。 僕は茉莉花の『ヒメゴト』に、いつまでも近づけないのだろうか。 茉莉花をを抱きしめながら、僕は静かに泣いた。 窓の外からヒグラシの鳴く声が聞こえた気がした。
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!