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限界に達してしまい、勢いよく手首を引き上げると、私はシンク下の収納を開け、包丁の柄を掴んだ。
後は思い切るだけいいはずだった。
だけど、包丁を掴んだ手が震えだした。
震えたまま、何もできない。
思い切れない。
結局、ガタンと音を立て、包丁はシンクの中に落としてしまった。
悔しくて息を止めた。
呼吸をしなければいい。
口をしっかりと閉じ、鼻から空気が入ってこないように力を入れた。
耳から入ってくる音がクリアになった気がした。
神経の全てが喉元に集まってくる。
次第に苦しくなる。
涙が瞼に溜まり、腹も胸も肺も痛い痛いと騒ぎ出すと、結局、口が勝手に開いてしまった。
空気を一気に体内に流し込んで、肺が勝手に短く息を吐き出して、呼吸を整える。
心は死に焦がれているのに、体はいつも生を求める。
痛みを嫌い、苦しみから逃れようと、体はいつだってもがくから、私はいつまでも生かされている。
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