白昼、路上にて見た幻覚

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白昼、路上にて見た幻覚

初め、彼は自分の手足、自分の声、姿形、生活、 自分を取り巻く全ての物が信じられなかった 幻の手足を持って 幻想の中で翼を広げ ありもしない景色の中を飛び回り、我を忘れ 自分の形を自分勝手に創り出して行き 最後には自分と共に世界中を破壊しようとした 自分はそれに値する存在だと思った 喜々勇んで破壊活動を始めたが 自分の中の世界の一部を破壊し 誰かを傷つけた時点でふと立ち止まり 絶望に暮れ、涙を流し また新たな崩壊の幻想の中に自らを閉じ込めて行った 幾重にも折り重なった幻想の中で現実は霞んで行き 次第に視力を失い、陽の光の存在さえ信じられなくなった 歩いていてもここがどこだか分からず 人の話している言葉が何の言葉かも分かなくなり 途方に暮れ 路上の真ん中で立ち止まり ふと自分の両手を見つめると その掌には「永遠に償う事は出来ない」と書かれていた 気が付くと路上の真ん中で叫び出し、倒れ込んでいた 陽の光がやけに強く眼の奥に射し込んで来て 全ての景色が白く霞んだ その時以来、誰かが 「お前は忌わしき罪汚れだ、 お前こそおぞましき呪いそのものなのだ、 誰に断ってここに居るのだ?」 と耳元で囁いているような気がした 誰がどこで囁いているのか? それが幻覚なのか、現実なのか? ・・・もしやそれは自分の気付かない、もう一人の自分が囁いているのか? 何とかして知りたかったが 知る由も無かった
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