彼等

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彼等

何かが弾ける音が響くと彼等はまた街角に飛び出して 街角に落ちている沢山の悲鳴の残骸を拾い上げて、組み上げて ここかしこに沢山のオブジェを作り出す そんな沢山のねじ曲がったオブジェが 通りを歩き角を曲がる度に、目の前に立ちはだかる 時に亜空間の入口を指し示し 時に何十、何百人分もの凝縮された悲鳴と雄叫びを響かせ 街の空気を真夏の陽炎さながらに揺らめかせ、滲ませ 夥しい人々を袋小路に誘い込む 彼等はあらゆる路地から路地 雑踏から雑踏、 群衆の心の中から心の中へと走り抜け 音楽や明り、朝、夜、星、月、つむじ風、砂埃 涙、裏切り、背徳、嘘、憎悪、決別 怒り、恐怖、嫉妬、震え、喝采、追憶、追想、 希望、絶望、渇望・・・ 目に見える、あらゆる人々の営みの 目に見えない影の中をすり抜けて行き 人の心の中の揺らめきを少しずつ抜き取って 弄んで、ばら撒いて、作り変えて 踊り、笑い、騒ぎ、走り抜け 何処ともなく消えて行く 彼等が何者なのか 彼等が何を望んでいるのか 誰も知らない 僕はまだ1度も彼等の姿を見たことがない しかし、いつも街角のここかしこで 彼等の足音が聞こえる
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