冷たい呪い

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冷たい呪い

 私は夢を見ていました。感覚で分かるのです。それが現実ではないことが。それが夢であることが。  私は川辺に居ました。大量の洗濯物が隣にあって、空は曇っています。私は冷たい冬の川に両手を浸し、洗濯板に一枚一枚、洗い物を擦りつけていきます。 「この時期の洗濯はやってられないね」  隣の奥さんが濁った声で言いました。彼女はワンピースの両腕をまくり、頭に真っ白な頭巾を付けて、良く肥えた体躯をむっくり動かしながら、私と同じように洗濯物を洗っています。 「指の先が崩れていきそうだよ」 「あたしゃもう感覚がなくなったよ」  私は濁った声で笑いました。隣の奥さんと同じく、袖をまくって、延々と洗い物を続けます。両腕はパンパンに膨れていて、掌はタコまみれ。少女の頃の細く、繊細な指先の面影は、もう微塵もありません。  やがて洗濯物が終わり、家に帰った私は、汲んできた井戸の水で料理を始めます。煮物が出来上がった辺りで夫が帰ってきて、気づけば外は真っ暗です。ランタンに灯を入れて、私は夫と他愛無い話をしながら味の無い食事を摂り、食事の片づけをして、やがてベッドに横になります。 「私はお姫様なのよ」  そう言うと、隣の夫は笑いました。 「そうかい、そりゃ大したもんだ。それじゃ一日お疲れさん、お姫様」  私は枕元のランタンの灯を消しました。
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