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透き通ったライトグリーンの瞳と目があった。
その瞳はすぐに僕の右手に視線を移した。
僕の手に握られていたお金を見ると小首を傾げて、
「落としたっけ?」
と、僕に聞こえるか聞こえないかくらいの音量でボソッと呟いた。
『落としましたよ、君の様な綺麗な人を間違えるはずがない。先週の火曜日ここで、』
もちろん彼はお金など落としてはいない。しかし、財布の中身を全て記憶している人はあまりいない、それに加え、この様に額の小さなお金は落としてもなかなか気が付かないはずだ。日付を具体的に示したのは、より真実味を増すためである。
やはり、彼も自信がないのか、
「そう、でしたか。わざわざありがとうございます。」
そう言うと、僕の握るお金に緩やかに手を伸ばした。しかし、それで終わっては困る。その念が伝わったのかどうかは判断し難いが、対象は少し眉毛を下げると、
「良かったら、お礼にドーナッツをご馳走させて下さい。」
『それじゃあ、僕がお返しした意味がなくなりますよ。』
「もともと返って来る方が奇跡のようなものですから、遠慮しないで下さい。」
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