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幸せな沈黙
3日前アジの南蛮漬けを作った。
その日は、出せなかったが翌日出せばすぐに無くなった。
壮介は忙しいらしく最近店には来てなかった。
常連の知り合いの客に"美味かった"と言われればやはり食ってみたくなるのだろう"次に出す時は残しておいて"と無理を言われる。
むずむずと口元が歪みそうだった。
あれからアジは入れど壮介が店をおとずれる機会が合わない。
壮介は疲れているのかさっぱりとしたもの、優しい味のものを求めているようだった。
嫌ではない、まさに和食割烹、和食のご飯が食べたいのだろう。
しかしだし巻き玉子やきんぴらごぼうほうれん草のおひたしと続けば、なんとはなく優しくしてやりたい、後は何故かかわいそうだな、と思って自己嫌悪におちいったり色々だった。
昨日久々にアジの南蛮漬けを作った。今日は味を馴染ませるためにも出さない。
カレイが入ったので煮付けにする。
淡泊な味付けの煮魚は少々気を使う。
煮つける形までさばいて、霜降りにして氷水にとる。水けをしっかり拭いて、底の広い身が触れ合って崩れない鍋で煮る。しょうがは皮をむいて薄切りにして落としさらに煮込む。
カレイの煮付けが出来て、ひじきの煮物と豚汁を作る。
すっかり寒くなったなと今更に思う。
壮介がやって来たのでとりあえず、今日入ったカレイの煮付けをすすめた。くもる眼鏡で離れた席の豚汁を見た壮介は豚汁をたのんだ。
豚汁をたのんでくれたお客様には小ぶりの握り飯を二つつけていた。
壮介は豚汁をすすり、お握りを放り込むように口にし、呟いた。
「…美味いもん食えて幸せで余計な事喋んなくても満たされる、なぁ板さんみたいな嫁さんいないなかなぁ」
一瞬、本の一瞬何言ってんだと脳内でツッコミ、あれ、俺うれしい?とトチ狂い。あ、先生お疲れで若干ワケわかんなくなってらっしゃる…と行きつき。俺はしゃべり出す。
「あの、先生、アジの南蛮漬けしこんであるので明日から出せますよ」
壮介は気だるげに笑い
「じゃあ今度こそ食わないと」
言った。
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