忘れてしまった恋人

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もうすぐ7月になる。 梅雨は残念ながらまだ明けない。 その日"ふじ"を訪れた壮介はやたら感傷的で酒を頼んだ。 呑みたい気分なのかもしれない、女将が最近入れた吟醸酒を出した。 つきだしに吟醸酒をチビリチビリとやる壮介は何やら物憂げだ。 俺は今日入っている鱚やトビウオ、真鯵。サヤエンドウやスナップエンドウ、キュウリなどを調理した。 旬の魚に旬の野菜美味いであろう料理を薦めた。 しばらくして酒がまわった壮介は語り出した。 「今日、職場で『そろそろ七夕だから』って、短冊やら何やらに使う色折り紙を用意したんですよ」 職場で折り紙が用意されて、園児と折り紙をしたんだそうな。 「一人の男の子が女の子にそそのかされて銀色の折り紙で作った紙の指輪を俺に真剣に照れくさそうに差し出して『先生は特別好き』そう言ったんだ」 「子供の言うことだから一週間後には何ちゃんが好きなんだとか、そんなんだろうと。だけど何故か酷く胸が痛んだんだ。」 壮介は気付くと何処か遠いところを見ていて。 俺は彼は遠い思い出の中の名も思い出せない古い想い人に想いを馳せているそう感じた。 俺は料理が好きだ。作っていると無心になる感覚もあったりして、完成したものは食べる人に喜びや満足感をあたえそしてその人間の血肉になる。 俺は野菜の下準備や魚の下処理に集中した。 何故か、俺は今は壮介の事を考えたくないと思った。 ヒイカと空芯菜で何か作れないか考え出した。
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