11恋

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 此方に背を向けて開店準備をしていた男は俺の気配に気付くと手元に視線を落したまま体を傾ける様に僅かに振り向いた。 「おはようございます。客注だけ検品しておきましたよ」  極普通に話しかけて来た彼の横顔は、勝ち気そうな吊り目が印象的で男前だと見受けられる。 (まあ半分は神条さんの趣味なんだろうけど)  彼はどうやら俺を別のスタッフと勘違いしているようだ。  事情を知らないのだから当然だが。 (見た目はアレだが…、仕事は真面目にこなしてくれそうだな)  不安が少し消えたところで、此方からも普通に挨拶を返してみる。 「おはようございます。検品ご苦労様」 「――!?」  俺の声に、僅かに傾いていた体が完全にこっちを向く。  驚きに目を丸めている彼の視線と漸く合い、想定内の反応にクスリと笑みを零す。 「ごめんな。驚かすつもりはなかったんだが、邪魔しちゃ悪いと思って」  とか言いつつ驚いたのは俺も同じなのだが、それは黙っておく。
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