私を名字で呼ばないで!

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幸人『(雅也の話を鵜呑みにした訳ではない)』 幸人『(しかし、今までのことを思い返すと諦めるには早いとも思える)』 幸人『(おれは確かに夏芽さんに失礼なことを言って嫌われているけど、何だかんだ言っておれと話してくれているじゃないか!)』 幸人『(本当に嫌いなら目も合わせてくれないし話題にも上がらない。夏芽さんは優しい面もあるけど、それでも心から嫌いな人間を構うほど聖人君子でもない)』 幸人『(夏芽さんもさっき言っていたではないか!思慮深い人間になれと。あれはそろそろ下の名前で呼べという隠れたメッセージかもしれん)』 幸人『(今こそ好機。今を逃して次はない)』 幸人『(おれは新聞部の部室に着くと勢い良く扉を開けた)』 夏芽『……何かしら幸人君?』 幸人『はあ……はあ……』 幸人『(走ってきたお陰か顔を見てもあまり気が動転しない。怪訝な顔をしているが今は気にしない)』 幸人『(今なら言えるかもしれない。貴女の名前を)』 幸人『(今ここで) 幸人『冬川さん!……あっ』 夏芽『……………………………』 幸人『(夏芽さんは笑顔だ。今まで待ち望んだその笑顔も、今はなんだか怖く感じる)』 夏芽『……あなたはそろそろ芯川(川の名前)に沈めた方が良いのかしら?』 幸人『ご、ごめんなさい!わざとじゃないんです。ちょっとこの口が勝手に……』 夏芽『今まで言い続けてわざとも勝手もないでしょうが!』 幸人『(後から思い返しても、あの時緊張していた様子はなかった)』 幸人『(ただ、思えば夏芽さんに対していつも冬川さんで呼んでいた。つまり条件反射でもう脳が夏芽さんを冬川さんと認識してしまっているのだ)』 幸人『(この好機を逃したおれは1週間程雅也から恥知らずの求愛者とからかわれる羽目になり、夏芽さんには3日程無視される目に遭った。惚れたら負け。よく言ったものだ。だが実際に惚れてしまったのだから仕方のない。その恋は行き着くところまで行かないと気が済まないらしい)』 おわり
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