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見えない牢獄
心臓が爆発せんばかりに叫んでいる。もうやめてくれ、終わりにしてくれ、と。
それでも私は足を止めなかった。いや、絶対に止めることはできない。止めれば、玲子に追いつかれてしまう。追いつかれたならば、私は彼女に殺されるかもしれない。彼女は決して私の裏切りを許さないだろう。
身体中の血液が、凄まじい速さで駆けめぐっている。こめかみの血管が張り裂けそうな悲鳴を上げ、頭の中にバスドラムのリズムを刻みつける。周りの風景の色が次第に薄まっていき、ときおりモノクロにしか見えなくなる。
一瞬、ふっと気が遠くなる。私は、頭を振って、正気を保った。歯をくい縛り、自分に言い聞かせる。しっかりしろ。死にたくないなら走れ。なんとか逃げ切るんだ。
私は死にもの狂いで林の中を走り続けた。
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