第1章

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          *             *  私は妻を殺した。そして、この山中に埋めたのである。もちろん、私一人の犯行ではない。大人一人を殺害し、人知れず山中に運び、そして埋める。そんな芸当は、いかに男といえど現実的には困難である。ましてや、私は体力にはあまり自信がない。気も小さい。そんな私が、どうして単独で遂行できようか。  もとはといえば、この計画を考えたのは、玲子だった。  彼女は、流行作家である私のアシスタントとして採用した女だった。  猫の手も借りたいくらいに多忙な私にとって、資料の整理や取材の段取りをきっちりこなしてくれる玲子の存在は大きかった。編集者の応対もそつなくこなし、仕事の依頼も私の負担を考慮しながら優先順位をつけてくれる。増え続ける仕事を私がスムーズにこなせているのは、玲子の手腕に依るところが大きかった。  有能さもさることながら、玲子には、ある種、神がかり的な色香があった。ケバケバしい下品なものではない。内に秘めた女の香り、とでも言おうか。つつましく振舞いながらも、その色香を隠し切れないでいる、そういう妖艶な雰囲気を身にまとっていた。今年、高校を卒業したばかりの娘だとは、到底信じられなかった。
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