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そして…
上空を優雅に舞うヘリの中で、彼もまた思い耽る
「…今はまだ、仮初めの日々を過ごせばいい…いずれお前はーー
この世界へと戻るだろう…
その時まで…」
俺は牙を研ぎ続ける
お前は平和という泥濘の中で戯れていればいい
見据えるは晦冥に散る光か、過去に眠る情念か
彼はまた、薄暗い闇夜へと飛び立って行った
ーーーーーー
「お手数おかけして本当にすみません」
「いや、二人とも無事で良かったよ…」
ベッドに座る颯太の横で、安堵の溜息を漏らしながら店長の日野は呟いた
その隣で丸椅子に座す小真知も同じような顔で颯太を見ていた
「でも…颯太君が庇ってくれたおかげで私もこの程度で済みました。ほんとごめんね」
足首の軽い捻挫と打撲で済んだ茜は包帯こそ巻いてるものの元気な姿で小真知の後ろに立っていた
「あの棚上の方に物を乗せすぎたら倒れるんだよな…言ってなくてごめん」
「いやいや、小真知さんは悪くないすよ!自分があんな場所にダンボール積んだのが悪かったんです!」
「次はしっかり脚を固定して背の部分も補強しておくよ…悪かった。治療費と当面のバイト代はしっかり払うよ、勿論茜ちゃんにも」
「いえ!私は元気なので全然!!」
「俺の責任でもあるんだ…!払わせてくれ」
「そ、そうですか…?」
「まあこう言ってるんだし言葉に甘えとこうぜ。また復活したら頼むな、二人とも」
小真知が茜と颯太を交互に見ながら言った
「私はもう明日にでも出れます!何ともないので!」
「そうか。じゃあ明日からお願いするよ!」
「小真知、お前の負担も大きくなるな…すまんが頼んだ」
「なぁにしおらしくなってんすか!らしくない!明るくいきましょうよ!」
こうべを垂れる店長を起こし上げ、小真知は笑った
「そういや…
これ、お見舞い」
小真知は手に提げた袋を颯太に渡した
「ありがとうございます…おっ!林檎ですか!大好物です!」
「何で林檎なんだ?時期早くないか?」
急な店長の問いに、小真知はしたり顔で答えた
「いやぁ、最近林檎狩りに行ってきましてね」
一同は、明らかに買ってきた感のあるその林檎を見て正気を疑う眼をしていた
その冷めた空気を気にも留めず、小真知はただひたすらに林檎を剥き続けていた
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