ヌーヴェルエールのいまむかし

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 おいしい料理に仕立てることでいのちを吹き込むことです。これ以上の説明は不要なのを承知で加えると、食べものは食卓に上がる前、生きた動植物でした。いのちをいただきます。生き返らせる方法のひとつは、まず血肉にして生きること。おいしくいただくことが、ふたつめ。  みっつめ。料理人は、料理としていのちを与えることができます。佐々木シェフの料理は生命力に満ちあふれています。蘇生に成功している証です。  シェフの言葉を引用します。 「私が一番大事にしていることは、食材の持ち味を完璧に引き出し いかにそのときその場所ならではの表現をするかということです」  着席すると、トレーシングペーパーに印字された美しい誓いに触れることができます。  完璧。できるかぎりではなく、完璧。謙譲の美徳など不要です。ハッタリではないからです。  シェフの言葉はこう続きます。 「そのためには食材の背景までも見極めた上で的確な火入れを行い 生命力に満ちた皿を構築することが何より重要だと考えます」  人がひとりひとり違うように食材もひとつひとつ違います。同種の魚の同じ部位でも個体ごとのわずかな大きさや脂の乗り方の違いで持ち味=個性は変わってきます。季節により土壌により違ってきます。ワインの例で言うなら、ブドウ品種で区別されるだけでなく畑の名や作り手の名を得ます。違うからです。     
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