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真夜中の高級住宅街を一台の自動車が走る。都内でも最高級の高層マンションの前で停車すると、高級そうな赤い上着を身に纏った女性が車を降りた。
エントランスを通り抜け、エレベーターの昇りのボタンを押すと、彼女は携帯の端末のディスプレイを確認した。
結局日付が変わってしまった。本当に、つくづく自分は運が悪い。そんなことを思いながら、彼女はエレベーターが降りてくるのを待った。
エレベーターが最上階まで昇る少しの間、彼女は夫のことを考えた。
夕食についてメールに書いていた。おそらく彼女の分も作って待っていただろう。晩酌用の刺身のことも書いていたから、その準備もしていたに違いない。せめて、遅くなることを連絡しておくべきだった。
報告書を読んで、あのあとすぐに、事態の収拾をするために行動に移った。
それまでは、久しぶりに夫と夕食を食べることができると浮き足立っていたのに、仕事の話が出た途端に頭が完全に仕事脳に切り替わってしまった。同時に複数のことを処理できない自分の不器用さに腹が立つ。
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