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彼女とその夫は、大学時代に出会った。
同じ大学で、同じ講義をいくつも受講していた。何度か隣の席になって、そのことを気にした彼に声をかけられた。彼女も彼の存在には気づいていた。
当時、彼女は大企業の取締役の娘であることを理由に、大学ではちょっとした有名人扱いをされていた。人付き合いが苦手だったために近寄り難い人物だと思われて、親しい友人もできず、皆から距離をおかれていた。
本当は寂しい思いをしていたけれど、仕方のないことだと割り切っていた。友人はおろか、話し相手すら望めない環境に慣れきってしまって、それが当然だと思っていた。
だから、彼に突然声をかけられたときは、心臓が飛び出るかと思うほど驚いた。
選択する講義がことごとく被っていることを理由に、もしかしたら気が合うのではないかと言われた。
はじめは下手くそなナンパかと思った。
しかし、大学には彼よりもずっとチャラそうな、誰にでも声を掛ける男はたくさん居たのに、彼女に声を掛けてきた者は誰一人いなかったことを考えて、その可能性を否定した。単なる好奇心か、下心でもあるのか、どちらにせよ構わなかった。
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