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せっかくだからもっと話をしないかと食事に誘われ、彼女は二つ返事で誘いを受けた。
仕事が終わる時間を確認し、駅前で待ち合わせて、彼の馴染みの居酒屋で軽い食事をとった。
本当はもう少し洒落た店でと思ったが、給料日前で格好をつける余裕がないと言って、照れ臭そうに彼は笑った。
家族や取引先の重役、婚約者とのかしこまった席での食事はこれまでに幾度となく経験してきたが、庶民の多くが利用する食堂や居酒屋での食事の経験が、彼女にはなかった。だからそのときは、素直に面白いと思った。
軽い食事をとったあと、少量のアルコールを飲みながら大学に通っていた頃の話をした。昔話に花が咲いて、気が付いたら彼女が彼を振った話になっていた。
振られた相手とこうして食事をしているのが不思議だと言う彼に、彼を振った理由を教えた。彼に落ち度があったわけではないことを、彼女はどうしても伝えておきたかった。
親に決められた婚約者がいたことを説明しているうちに、婚約について思い悩んでいたことも手伝って、婚約者の異常な趣味をどうしても受け入れられないことまで、洗いざらい彼に打ち明けてしまった。
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