10/10
前へ
/75ページ
次へ
 彼は何も言わずに彼女の話を聞いていた。  食事を終えてレジで精算をした。  彼とは比較にならないほど彼女のほうが裕福だったけれど、それでも食事代は彼が支払った。  迎えの車は呼ばずに、彼と駅まで歩きながら話をした。彼の仕事の話を聞いたりもした。 「生活のために働いてはいるが、今の仕事が自分に向いているのかわからなくなる」という彼の言葉が気に掛かり、今の仕事は好きではないのかと尋ねると、彼は後ろ髪を掻き、困ったように微笑んだ。  それでなんとなく、口にしてしまった。 「私と結婚しない? 働く必要はないし、ただ家に居るだけでいいわ」
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!

548人が本棚に入れています
本棚に追加