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 エレベーターを降りると目の前は開けたホールになっており、その中心に品の悪くない程度に高級な玄関扉がある。  彼女の自宅の玄関だ。  ドアノブに手をかけ鍵が掛かっているのを確認すると、彼女はカードキーをセンサーに通した。ロックが解除される音を確認してドアノブを回すと、音もなく玄関の扉が開く。  内側から鍵を掛けなおしてヒールを脱ぎ、足元に並べられたスリッパを履いた。足音を立てないように廊下を進むと、リビングに仄かな灯りが確認できた。  もう深夜二時を回ろうという時間なのに、夫はまだ起きているのだろうか。  リビングのドアを開き、室内を覗き見る。夫の姿はなかった。リビングから繋がるダイニングに置かれた白を基調とした品のいい高級テーブルに、一人前の夕食の用意がされていた。  伏せて置かれた彼女愛用のカップと茶碗と汁椀、中央に置かれたブリ大根と付け合せの惣菜にはラップがかけられていた。晩酌用の刺身とお酒は冷蔵庫の中だろう。  せっかく用意してくれたのにと申し訳ない気持ちになったけれど、さすがにこの時間に食事をとる気にはなれなかった。  ため息をついてキッチンに向かい、コップ一杯の水を飲み干した。
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