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 高層ビルがひしめき合うオフィスビル街に、一際高くそびえ立つビルがある。国内で五本の指に入る大企業のグループ会社のひとつである。  そのビルの最上階に位置する一室。昼間は陽の光で明るく照らされていた室内も夕刻になると薄暗くなり、並べられた家具から伸びる影が長く長く部屋の奥に届きそうなほどだ。  部屋の中心には品の良いデザインの応接用ソファとテーブル、壁際には多種多様な専門書籍がびっしりと並んだ本棚が整然と立ち並ぶ。配置された家具にはもちろん、部屋の隅にさりげなく置かれた観葉植物さえも埃ひとつ被っておらず、この部屋の持ち主と清掃を手掛けるものの几帳面な性格が伝わってくる。  その部屋の窓際付近、中央に置かれた書斎机に向かい合う高級なソファにゆったりと腰を下ろし、陽が傾きつつある西の空を眺めるひとりの女性がいた。  この会社の女社長である彼女は、グループ企業のトップに立つ代表取締役の娘だった。まだ二十六歳という若さでこの会社のすべてを取り仕切っている。  幸い部下にも恵まれ、彼女が社長に就任してから今日までのあいだ、この会社は順調に利益を上げてきた。     
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