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ただし、この状態に不満がないわけではない。社長としての仕事は思いのほか忙しく、休みという休みは取れず、家に帰る時間も0時を回ることが多い。特に先月は取引先との大きな契約が動いたこともあり、家に帰らずに会社に寝泊まりすることすらあった。テレビのバラエティ番組に出てくるような、どこかしらの優雅な生活を自慢する社長が羨ましく感じられるほどの忙しさだ。
しかし今日は違う。
今月になって大きなヤマが片付いたこともあり、今夜は定時に帰宅してゆっくり家でくつろげそうだった。
書斎机に向き直り、最後の書類に目を通すと、彼女は書類の一番最後に印を押した。
「これでおしまい、っと……」
大きく伸びをして背もたれに身を預け一息つくと、彼女は机の引き出しから携帯端末を取り出した。ホームボタンを押してパスワードを入力し、ロックを解除すると、なんの変哲もないどこかの自然の写真がディスプレイに映し出される。様々なアプリケーションのアイコンが並ぶ中、メールのアイコンに赤い文字で表示された「1」という文字を確認し、彼女は思わず立ち上がった。
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