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『お仕事お疲れ様です。
今日はブリ大根が食べたくなったのでスーパーにブリの切り身を買いに行ったら、ちょうどお買い得品になっていました。きっと日頃の行いが良いからですね。
…《中略》…
帰りに白い猫に追いかけられました。あれは絶対に袋の中のブリを狙っていましたね。もう目がヤバかったです。獲物を狙う肉食獣の目でしたから。
放っておくと家まで着いて来そうだったので、晩酌用に買ったお刺身を一切れあげました。そうしたらきちんとお座りして見送ってくれたんですよ。なんかこう、気品を感じさせるような不思議なねこでした。まるで貴女のような……』
無関係な人間がこのメールを見たら真顔で削除するだろう。
だが、彼女は違った。念入りに長文に目を通し、最後の一文を確認した彼女の顔が、耳まで赤く染まる。
メールの最後の一文は『愛しています』の一言で締めくくられていた。
掲げるように端末を持つ両手をふるふると震わせて、彼女は必死に喜びの声を押し殺した。血走った目を見開いて端末のディスプレイに視線を戻し、返信のボタンを押すと、彼女はメールの本文を入力する。
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