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 胸が酷く痛んだ。自覚していた以上に、この夫婦関係に期待していたことに気付かされた。目的は他にあったとしても、多少なりとも彼女は自分に好意を抱いてくれているのだと、彼はそう信じていたかった。  胸に抱いていた微かな希望を打ち消すように平静を装うと、彼は怯える彼女に向けて歩み出した。  ギシッと床が軋むたびに、彼女が身を強張らせるのがわかった。一歩、また一歩と歩を進め、目的の収納の前で立ち止まる。扉の前で棒立ちになった彼女は俯いたまま動こうとしない。 「そこ……」  収納の扉を視線で指し、彼女に声を掛けると、彼女は慌ててその場を離れた。彼と距離を起き、遠巻きに彼の一挙一動を観察しているように感じられた。  詰め替え用の洗剤を手に取り、真っ直ぐにキッチンへ戻ろうとした彼だったが、その前にもう一度だけ無防備な彼女の姿を見ておきたい思いに駆られ、後ろを振り返った。  未だ壁際で、彼に視線を向けたまま佇む彼女にゆっくりと歩み寄ると、彼は大きく見開かれた彼女の目をじっとみつめた。
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