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「この結婚は、貴女がどうしても受け入れることができなかった婚約者との関係を解消するための、偽装結婚でしょう?」
彼女の口から真実を聞きたい、そう考えて、彼は躊躇いがちに疑問を口にした。
確認しなければならなかった。言葉足らずな彼と、本音を言わない彼女の、すれ違った認識を改めるために。
「貴女の望みを叶えた見返りに、俺は働かずして何一つ不自由のない暮らしを与えられる。そしてほとぼりが冷めた頃合いを見計らって、契約は解消される。……そうですよね?」
彼が投げかけた問いに、彼女は大きく目を見開き、その場にぺたんと座り込んだ。
呆然としながらも顔に笑みを浮かべ、涙を流しながら、震える声で彼女が呟いた。
「アナタは最初から、いずれ別れるつもりで、わたしと結婚したの……? どうして、愛してるなんて嘘をついたの……?」
涙で濡らした顔を上げ、彼の顔をじっと見つめる彼女の姿に胸を締め付けられた。
嘘なんて一度もついていない。彼はいつだって彼女に本当の気持ちを伝えてきた。嘘をついたのだとしたらそれは、彼が彼女を契約上の妻としてしか認識していないということだ。
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