無二の言葉

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今年で29歳、フリーター、独身。 家族構成はシングルマザーの母一人、そしてひとりっ子のため兄弟や姉妹はいない。 ”シングルマザー”なんていうと、大抵の人は可哀想だとか大変だったねだとかよく同情されがちで。 けれど私の場合は不仲だとかそんな感情のもつれで離婚した訳じゃない。 だからその度に変な違和感を感じて心の何処かにぽっかりと穴が開いたような気分になってーー。 こんな私、倉里いい(そうりいい)。 雨がしとしとと降り続ける6月の朝、傘をさしながらふと考えていると余計な言葉が同時に頭の中に登場する。 ーー「あなたのお母さんは、あなたを傷付けたくないからそんな嘘をついたのよ」 違う。そんなんじゃ、ない。 雨の粒が安物のビニール傘に反射してぱちぱちと鳴った。 乾いた音と共に大好きなはずのあの人の声が私の頭の中をグルグルと駆け巡る。 「私の父が鬱になってしまって、それからも仕事が全く上手くいかなくなってしまって、母は仲は良かったけど、私のために離婚したって。このままだと家族共倒れするからって。」 「それは違うわよいいちゃん。本当に気持ちがあるのなら、例え病気になろうと連れ添うのが夫婦ってものだよ。だからねえ、 ーあなたのお父さんとお母さん。きっと仲が良くなくて離婚したのよ。」 雨の音が強くなり、呼吸が一瞬、止まるのが分かった。 ねえお母さん。こんな些細なことをずっと引きずってるなんて、こんなこと聞いたら呆れるかな。それとも気にするなと笑うだろうか。
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