0人が本棚に入れています
本棚に追加
都内に越してきてやや数年、憧れていた会社に就職出来たもののストレスと慣れない都会暮らしにより体調を崩し休みがちになった私は見事に首を切られ気が付けばフラフラとアルバイトを繰り返し現在に至る。
後悔なんてなかった、経験したことは今後に生かせば良い、新しい夢や目標でも見つけて、何だったら結婚して、明るく過ごしていけば良い。
けれど心の何処かにはぽっかりと穴が空いたようで、何か物足りない、そんな毎日を送っていた、気が付けば桜が咲き始めようとする3月の下旬頃。
私は隣に越してきた30代後半の既婚子持ち女性、司野座イイ(しやざ いい)さんと出会った。
「初めまして。司野座といいます。昨日から隣に越してきました、良ければこちら食べてください!」
そう言って渡されたのは大きなタッパーに入れられた煮物やポテトサラダ、美味しそうな手作りおかずの数々。
「え、ええ!こんな、良いんですか?すっごい!」
「ううん!良いの良いの!むしろそんなに喜んでもらえて私も嬉しいっていうか、ホラ、最近の人ってこういうの嫌がるじゃない?近所付き合いとか。さっきも別の部屋の人に挨拶行ったんだけど、凄く嫌な顔されちゃって!」
「ええ、そうなんですか?私田舎育ちなんでこういうの慣れてるっていうか、凄く嬉しいです、ありがとうございます」
「こんなに若くて可愛い子が隣に住んでるなんて、嬉しい。もうすぐアラフォーのオバさんで悪いんだけど、良ければ仲良くしてあげてね!」
そう言って嬉しそうに笑う目の前のその人は、綺麗な肌と程良く手をつけられたアイライン、ピンクのチーク、口紅、そして茶髪でふんわりとパーマをかけ、ゆったりとした白のトップスの裾を揺らしながら黒のロングスカートを履いた、私の頭の中にある”理想のお姉さん”とでもいったようなものを完璧に描いていた。
最初のコメントを投稿しよう!