無二の言葉

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雨が降り続ける中道の端で立ち止まり、ここ数ヶ月の記憶を一瞬で再確認し、溜息を吐く。 29年間信じ込んできたー、いや、信じようとしてきたことをこうあっさりと否定されるとは。 別にどうってことない会話の一部だ、他人にこの事を話したところでそんなことにも気が付かなかったの?と驚かれるか辛かったね、と同情をされるかそのようなところだろう。 そうなのだ、そのくらい、どうでも良いことなのだ、あの人にとっても。 けれど私にとっては違った。 29歳にもなればある程度分別はつくしドラマと現実の違いだって分かるしうすうす感づいてはいた、けれどこれまでこの話をしてきてそれを否定する人なんて一人もいなかったしかと言って人の小さな傷に深入りをしてくる人なんていなかった。ーー傷、そうか。私、無意識のうちに離婚ってことが、シングルマザーってことが、傷だって思っていたのか。情けない。これまで胸張って明るく生きてきたのは何だったのか、ああ、情けない。 土砂降りの雨だというのに自分の都合しか考えず車を猛突進させ遠慮なく水溜まりを蹴り私の服にそれを全て浴びさせ隣を過ぎ去って行ったあの軽自動車の運転手より、情けなくて、哀れだ。 ぽっかりと空いてしまった穴が少しずつ、深みを増していくような、そんな感覚を覚えた。 「....どうしよう」 ものすごく、腹立たしい。 何か仕返しをしてやりたい。 腹立つ。腹が立つ。私の、私の大事な精神を傷つけて。腹がたつ。腹立つ。 びしょ濡れになった靴で目の前の水溜りを思いきり踏んでやると、視界の端にいたのか驚いたカエルの親子が私の足元をすり抜けて雨の中消えて行く様子が見えた。 「....親子、か」 そして瞬間、あの女の言葉が頭の中に浮かんだ。 子離れ出来てなくってって、笑いながら何処か悲しそうな顔でそう言ったあの顔も。
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