第1話 初陣

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『連隊、気を付け!』 荒涼と荒れ果てた大地に紅い軍服を纏った数百から数万の人間が埋め尽くしていた。 そんな中で、どこかの指揮官だろう号令がウィリアムの耳を打った。 反射的に指揮下の小隊に号令を掛けようと、口を開きかけて、先程の号令が隣の小隊のモノだと気づき、ウィリアムは後ろに整列する彼の部下達に気付かれない様に願いながら中途半端に開いた口を閉じた。 「小隊指揮官殿。小隊総員、30名。欠員なし。武器、装具共に異状なし」 ウィリアムが心を落ち着かせようと小さく深呼吸をしていると、タイミングを計った様に彼の小隊の先任下士官が報告をしに来た。 「そうか。報告、ご苦労」 「ハッ」 自分の父親くらいに歳の離れた部下に短く労をねぎらうと、先任下士官のトレードマークと言える短槍を掲げて敬礼をして教練に則った動作で回れ右をする。 「軍曹」 不意に踵を返して自分の配置に戻る彼を呼び止めた。 「・・・何か?」 「隣接する小隊が動き出している。そろそろ我が小隊も前進準備を下達しようと思うが、貴官の意見はあるか?」 ウィリアムの言葉に向き直った先任下士官は懐から、懐中時計を取り出して時間を確認すると首を静かに横に振って否定した。 「No、sir。まだ、攻撃開始時刻には早すぎます。隣接する2小隊の指揮官殿は緊張されて勇み足で号令を下達したのでしょう。あれでは、無駄に兵の精神力が減ります。号令は連隊本部の統制があるのを待つのが賢明かと存じます」 そう言ってニヤッと笑うと、下士官の助言に意味を見出だせない士官学校出たてのボンボンの初陣にはよくある事ですと付け加えた。 「軍曹、そのボンボンは士官学校では優秀な成績でしかも、私もボンボンだが?」 「sorry、sir。小官はただ隣の小隊指揮官殿より、ウィリアム少尉殿の方が優秀であると言いたかっただけであります」 そう言葉を残して、不敵な下士官は自分の配置に戻って行った。 ウィリアムはまったく、後で不敬罪に問われても弁護してやらんぞと溜め息を吐いた。 そこで、ウィリアムは自分の今の状況が先程より精神的に楽になっている事に気付いた。 (彼に緊張を解されたのか?先任下士官には敵わないな) 苦笑すると、攻撃開始時刻までの間に少しでも自分の魔力を練る為にウィリアムは眼を閉じた。
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