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ふと隣のシートを見るとイザリ屋男性陣の姿は消え、塵里も立ち上がってこちらと合流していた。
「皆さん用事があるって言って帰ってしまわれました、次の演目は鍾馗なので見ごたえがあるのに」
「まぁ用事なら仕方ないですよ!の、飲み物もありますのでこっちで寛いで下さいね」
狐面をギロッと睨みつつ塵里を手招きすると、社長は素知らぬ顔をして饅頭に手を伸ばしていた。
滋さんも含めクセのあるメンバーが一瞬で帰るのはこの死神狐のせいに違いない。
しかも関係ない自分が残り、私と話をした男性にネチネチと小姑のような質問をしている。
挙句、憎たらしい顔で甘い物を食べている姿を見ると、髪の毛を数本抜いてやりたい衝動に駆られそうだ。
「そうそう、鍾馗ってさ場所によって内容微妙に違うじゃろ、紫紺のとこってどのタイプの鬼?般若とかじゃないよね」
顔色を見て違う話題に変えてきたが、サラッと悪口を入れてくるので、後ろにいる毛布一号は飲み物を手にククッと笑っている。
「春の疫癘夏瘧癘。秋の血腹に冬咳病のすべての最悪の病気を持つ疫神……と名乗る鬼です」
「おや一緒じゃの、というてもワシはここの出じゃないけど」
ウチの田舎の神楽も同じようなセリフを面越しに鬼が言っていた気がするので、白犬地方の鍾馗と話は共通してそうだった。
躍動感満点の鍾馗に目を奪われていたが、暫くすると女子を見送った歩兎さんが疲れた顔で戻ってきてシートに座ると『飲み物を渡せ』と手で合図してきた。
いつの間にかここのグループのメンバーは紫紺と塵里に社長と瑠里に歩兎さんというメンツで短期留学に関係ない奴らが平気で紛れ込んでいる。
「いやぁ見事じゃ!迫力もあって衣装もええの」
キツネ…いや社長はご機嫌で紫紺も興奮気味に頷いていたが、瑠里は焚火が暖かかったのか包まったまま眠りに入り違う世界で寛ぎすぎている。
「そういう訳だから紫紺も塵里も地元で綺麗な子を探したらええ。この女性はちょっと違うと年寄りの勘がピンときたからの」
話の流れ的な言い方だったが紫紺達は『はい?』という表情をし、歩兎さんは食いついて質問をしていた。
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