萌葱刺繍

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「百合さん色々大変だったみたいですが、大丈夫ですか?」 「はい何とか……」 「鈍いなお前は、ワオンは『変な男に騙されてないか』って意味で聞いてんだよ」 啄が横から割り込んできたのもカチンときたが、その言い回しの時にポーズを男前風にしているのも苛立ちを覚えた。 「うっさいんだよボンレス!お前はワオンさんと違ってハム体型のくせに、恰好つけんなイラついてくるわ」 「何だと!先輩に向かって又そんな口叩きやがって!ワオン心配しなくてもこんな般若に男なんて寄り付かん」 久々の再会でも小競り合いになり、部屋が騒がしくなってくると『コホン』と咳払いした社長と田村さんが入って来て場が一瞬で静かになる。 「はーい、皆さんお静かに!今から月影姉妹に気に入られてちょっと天狗になってる田村から説明があるよー!注目しないと……」 「既に黙ってるしお前がうるさいよじじい!田村さんの悪口挟んでんじゃないよ」 「そうだよ、狐天狗はアンタだよ」 ハンカチを目頭に当て前に移動する社長に、田村さんは苦笑いをして隣に立つと口を開いた。 「先日イザリ屋で会議が行われまして、無色チームの事も議題に上がりました」 今まで働いてきて会議がある事もよく知らなかったが、無色チームと言われるとピクッと反応してしまう。 無色は何チームかあるようだが、ネズミの世界で出会ったグループしか知らない。 「朝霧のチームは『無色のレベル』を逸脱してるが色のランクを上げないので他と差がありすぎると」 「分かりました、トレーニングをさぼり昆虫以外のヘルプは断って、無色の中で調子に乗ってるとか思われないよう努力します!」 「瑠里さん!誰にもメリットないから止めてそれ」 社長に突っ込まれた瑠里はシラーッとした目で見ていたが、出来れば無色でいたいし死ぬ確率が高くなる上のランクになりたくない。 それはリーダーも同じだと思うが、色んな世界の者に力を貰った私達はこのままだと無理があるのかもしれない。 「そこでだ、朝霧チームの気持ちも考慮したうえで新しい刺繍のランクを作る事にした」 「い――っ!?」 社長はこれ見よがしにドヤ顔を決め、チームの反応に満足すると、この先勿体ぶりながらの話になると予想がついた。
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