炙り出された影

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「こんばんわ!ダメだよ無闇に違う世界の人の血を舐めたりしたら。感染症とか危険だからね」 乱暴に引きはがしてもっともらしい事は言ってるが、雑な扱いに傷の痛みはひどくなっていた。 「空蝉屋の先生!丁度良かった、一緒に見ましょうよ」 紫紺は先生に出会って嬉しそうだが、こちらは帰りたいモードに変わったし、蘭さんが居ないので荷物の置き場も聞けない。 「薬持ってますので手当しましょうか?」 「大丈夫です先生も持ってますから。皆さんここで一緒に神楽見ましょう」 塵里の言葉に乗っかりそのままフェードアウトする作戦は失敗し、紫紺が用意してくれた敷物には歩兎さんについてきた女子生徒まで座り一杯になる。 その中に真珠さんと目がピンクに変わったというムカデの世界の子も一緒だった。 都合よく狭くなったので、偶然を装ってシートから出て立ち上がると、塵里はミニサイズのビニールを敷いてくれたので一緒に座る事にした。 二人座ったらギリギリなので寛げはしないが、隣でワイワイしてるにも関わらず、ちょっとデートっぽい雰囲気だし勿体ないので味わっておくことにした。 「傷見せて」 手を出すと膝に置いてくれ、クラッチバッグから小さな塗り薬を出し渡してくれた。 無言で塗ってると耳元に口を近づけボソボソと話をしてくれたが、内容を聞いて淡い期待も幻となる。 「私達はテレパシーでも話せるんですけど、キセロから『百合ちゃん怖い、追い出そうとしてる』って連絡がありまして、彼機転が利くんでどうか置いてやって下さいね」 『あの腐れ大蛇め、また告げ口作戦かよ』 塵里が近づいたのはこの事を伝えたかったのだと分かると、姑息に笑うキセロの顔が見えてイラっとしてきた。 「はいはい、追い出されないよう気を付けてねチクり大蛇と伝えてください」 帰ったらシバいてやると心の中で思っていると『暴力は止めて下さいね』と先手を打つ返事がきたようだ。 借りた薬を返すと、もう一人で神楽を見たり買い食いでもしようと思い直し、立ち上がろうとした。 「どこ行くんです?」 膝に手を置かれ綺麗な甕覗色の瞳がこちらを見据えたと同時に太鼓の音が鳴り始めた。
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