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「神楽を満喫するだけじゃなくて、仕事もあるんですけど……」
囃子が始まると塵里の耳元で、大きめに話さないと聞こえない位になる。
「他にも沢山いるでしょお仲間が、負傷したんだし大人しくしていればいいですよ」
その言葉に甘えたいのは山々だが、狐の仲間が居ないと断定するまでは霧は晴れず、槿についても気配を悟れなかった自分が情けないとも思っている。
「動かない方が上手くいくとアドバイスしてるんですよ」
「………」
薄い水色の瞳を横から見ると何もかも見越しているようで羨ましくなる。
顔もスタイルもよく強くて裕福で頭もキレて……きっと私達みたいな悩みは全くないと思われる品がいいボンボンめ。
「いや、途中から妬みに変わってきてるよね」
普段体験できない事その二として『イケメン男性の隣でデート気分を味わう』と前向き思考でジッとしていると、数分で邪魔をされた。
「先生の前で堂々とデートは止めてくれるかな」
「恋愛にまで口出しされる覚えはありませんが」
「先生はあっちに行ってて下さい、女子からの視線が突き刺さって痛いんで」
歩兎さんを足蹴りしてシートから追い出し、女性のグループに目をやるとバッグを手にした子が立ち上がるのが見えた。
その子を真珠さんがチラ見して又雑談に戻るのが分かると、何となく落ち着かない気持ちになる。
「先生はいいけど俺はヤダね、いつの間に親密になってんの?紫紺も集中出来てないみたい」
タイミングよく樹さんがクレームを言いに来たのですぐに立ち去った女子の後を追うよう伝え、もう一度隣のシートに目をやった。
歩兎さんと一緒に女子グループに囲まれている紫紺が舞台ではなくこちらをボーッと見ている。
正気に戻そうと手を上下と振ると、ハッしたように舞台に目をやったが明らかに様子がおかしいのは分かる。
『何だろうこの違和感と不吉な予感は』
神楽は一つ目の演目が終盤になり盛り上がって舞も激しくなっているが、樹さんが追った女性と目配せするように見えた真珠さん、紫紺の様子も気にかかる。
第一の演目が終わると、次が始まるまで近くの屋台で買い食いしたり花見をしたりと自由に過ごせるようだ。
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