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「だから何度か言ったけど、眼の使い方が甘いんだよね。見た目だけじゃなく心の目を養えって伝えた筈だよ」
「……その声は桜舞?!」
目がピンクになった女子から男性の声がするとドキッとするが、狐が化けてたなら完璧すぎて気づく訳もなかった。
朧も少女や使用人になっても全く分からなかったし、狐はそれを楽しんでるような気もする。
桜舞が化けたのは飛び抜けて綺麗でもなく、地味な感じで周りにも馴染んでいたし声も女性そのものだった。
「私にはまだ無理だよ……神の変装っていうか『化けと騙し専門のプロ』だよ?暴ける訳ないじゃん」
「ちょっと人聞き悪い言い方止めてよ、それと盆栽雑誌クリアしたみたいだね」
本当に狐という名の神は何もかもお見通しで、悪口を思い浮かべても言い当てられそうだ。
「塵里さんも気を付けた方がいいですよ、狐って本当に怖いんで」
耳打ちしてる風で普通の声で言うと、桜舞は大きく咳払いをしてこちらを見ていた。
捕らわれた真珠さんのその後も気になるが、トカゲの世界というのは嘘で、やはり狐の世界の住人だったらしい。
朧達と住むエリアは違っているが恐らく狐の世界で『なかった事』として処理されるれるのだろうと予想がつき胸の奥に疼きを感じた。
「百合さん短い時間でしたが一緒に過ごせて楽しかったです。大蛇達は私が止めなくても恐らく飲み込まなかったと思います、瞳の色で同族だと察知したでしょうし」
『いや、性格悪いから飲み込んでたと思うてか、同族じゃないし!』
口に出して否定したかったが、蛇類の執念深さは妹で承知してるので、下手に恨みを買わないよう愛想笑いに努めた。
何事もなかったようにシートに戻ると、紫紺と歩兎さんは普通に話をしているし、女性達も真珠さんの存在すら忘れてるように会話に相槌を打っていた。
塵里が自分の世界に戻るなら見送りでもしようと立ったままで待機していると、小さなシートのホコリを払っただけで腰を下していた。
「どうしました?座らないんですか」
「えっ?はい」
過去形でお別れの挨拶だと勘違いしてしまい、帰ると決めつけていたので肩透かしを食らった気分だ。
お尻だけちょこんと乗せ両手を芝生の上に置いていると、後ろでシートを敷く音がして、私の手はお構いなしで下敷きにされた。
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