炙り出された影

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一応一件落着したのに塵里は帰る気配はなく、短期留学を最後までやり遂げるつもりなのか不明だが、神楽は楽しむ気満々に見えた。 次の演目は『黒塚』と言って悪者は狐で鬼女に化けて修行人を食らう…ような話だったがこの世界ではどうアレンジされているのか楽しみだ。 出来れば悪役は狐のままでコテンパンにして欲しいし、何なら私も外から石を投げて狐退治に加勢したい位だ。 男性と肩が当たるかどうかの際どい距離で見る神楽もおつなものだし、本当なら休憩時間に何か買いたかったが、次の演目までは我慢しようと舞台を見ていた。 後ろから香ばしい醤油の匂いがしても、バリバリと音が聞こえても必死で耐えていたのに、太鼓の音が聞こえ始めると追加でフライポテトのいい香りに負けそっと後ろを向く。 ポテトを食べていたのは蓮さんで、その隣にはキャップを被っているが殺気立つオーラが漂っているので滋さんの予感がして思わず前を向いた。 蘭さんもいたが、塵里との邪魔しないようワザと声を掛けず気を使ってくれたらしい。 好奇心旺盛でマイペースの勇者も居心地が悪そうなピリピリした空気なので、今は逆に近づかない方がいい。 私も振り向きづらいし、向こうからも話かけにくいのに、こんな近い距離だなんて違和感がありすぎて具合が悪くなりそうだ。 蘭さんの隣にも誰かいたが見る暇もなかったし、神楽もゆっくり見たいがここだと全く入ってこない。 「あの塵里さん、場所移動しませんか」 「しなくていいんじゃないです?俺らの前に居づらいなら、狭いシートに二人無理して座らなくてもこっちに来たらいいですよ」 『振り向きたくない・今は絶対に振り向きたくない!』 滋さんだと確定したが声に怒りが籠ってるし、ヘルプで入ったのかもしれないが、ここではイザリ屋とは知らん顔だと木村さんにも言われている。 「お兄さんがスゴみ利かすから月影さん固まってるよ。そうだ一緒に食べませんか、飲み物も沢山ありますし」 ムカデの世界の同級生女子に戻った桜舞は、持ち前の食欲で後ろでがっついてたらしい。 「ではちょっとお言葉に甘えませんか?百合さんが窮屈だと申し訳ないので」 「いえっ……大丈夫です!」 頑なに前を見ている肩に手を置く塵里にギクッとして、思わず振り向いてしまった。
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