炙り出された影

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寮に入ってる人は自分の世界に帰って休みを過ごしたり、届を出せば身内というかお手伝いさんも一人は呼べるシステムがあるらしい。 やはり一般で入る人でも裕福なのは間違いなさそうだ。 今週末は紫紺の世話役が名物を持って来るので待っててと言われたが、放課後男性陣は神楽の練習をするので食堂でスイーツを買い食いし、付近の階段で待機していた。 着替えを済ませたクラスの女子三人組はどこかに出かける様子で、猿の世界を楽しんでるように見えた。 「ここでの生活もあと僅かだな…」 女性の友達は案の定できなかったけど、それなりに学校生活は楽しめたし蘭さんや紫紺がいたので一人でも心強かった気がする。 神楽のお話も仕事に共通してる部分があり勉強にもなったし、少し詳しくなった事も嬉しかった。 ボーッとしながら人の流れを見ていると、こちらに向かって犬を連れて歩いてくる一人の男性に目が留まった。 歳は三十代くらいで細めだが筋肉質なのか腕まくりをしている先の手が逞しい。 背筋がピンとして動きが綺麗なので何となく周りから浮いてたのもある。 それにリードの先の犬が真っ白で可愛くてチョコチョコ小刻みに歩いてる姿は、ウチの王子を思い出してしまう。 こちらの視線に気づいたのか少し顔を上げると、真っ白でフワッとした毛並みに紺色の目がまん丸でキュートすぎるが、紫紺の同族なのが分かった。 目が合ってから三秒で犬はタタッとこちらに向かって駆けてきたが、尋常じゃないスピードに笑いが出そうになる。 犬の世界の特徴なのか大きさは全く関係なしで速く、連れていた男性が驚いてリードを放してしまい気合を入れて待ち構えた。 『飛び掛かる程度ならいいけど、おフザけで攻撃とか止めてね……マジで!』 気づけば目の前まで走って来た犬は、大きくジャンプをしたので両手を広げると、頭の上を通り過ぎて私の後ろで着地した。 「ふふっ、勢いありすぎだって」 近くで見ると可愛さは更にアップしているが、王子を知ってるので気軽に触る気にはなれない。 犬の方から鼻をクンクンさせて近づいていたので、クセで持ってるイナリのオヤツをリュックから探していた。
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