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甘々な誘惑
画像を見るとお互いに顔を見合わせて苦笑いする。
ハツさん達の影響で最近はエアープランツという土が要らない植物にハマっているのは知っている。
キセログラフィカを調べると蛇がウジャウジャとした幾何学的な生え方をしていた。
大蛇の事バレてんじゃないかとドキドキさせるくらい被写体が酷似している。
「タツもさ、一人三役は厳しいと思ってたんだよね。助手がいる頃合いだと気づいてたよ私は」
イナリと色違いの首輪を当たり前のようにキセロと命名した大蛇犬に付けている。
「いや、まだ飼うって決めてないけど?」
「ビビッと来た!トイレも服も沢山あるし運命を信じてみる」
「ちょっと!これ以上金のかかる者と生活していける程ウチは裕福じゃないんだよ?」
元が大蛇だと知る筈もない母は、ミックス犬に頬ずりして減らず口をたたき出す。
「そんな食べないよね~?少食だもんウチら。間食はミックスナッツついばむモデル生活してるもんね」
「体型鏡で見て来いよ!腹周り糖分と脂質の塊やろが」
「はぁ怖~い。イナリですっかり犬派にされてさ、連れて帰っといて飼うの無しって何のドッキリ?そこら辺でカメラあるの?芝居はいいって」
こんなオバサンに口で勝てる訳はない。
実は中身大蛇だけど大丈夫?って本当は聞きたい……蛇が大嫌いな母が、見た目だけで簡単に騙されてしまう。
実は隣にいるのは、瑠里じゃなくて大蛇だったらと悪い妄想まで浮かんできて自分の頬を抓った。
「痛い……風呂入って寝るわ」
「そう?ごゆっくりぃ」
どうにでもなれと投げやりな気持ちでバスルームに入ったが、私達家族はいつの間にこんな歓迎モードになれたか振り返ってみた。
貧乏で日々の生活に追われ、バイト先では同年代と話も経済状況も合わず辞めてしまう事が多かった。
あの時に犬が飼いたいと言っても絶対に許される筈はない。
「やっぱお金があると気持ちに余裕が出るんだな…」
母は特に変わらないが、私達はあの時よりもギスギスしてないし、通信制で高校の勉強も出来て免許を取得したのも仕事のおかげ。
家賃も安く好条件で住まわせてもらえ貯蓄も増えるし、その他には特に贅沢はしてないが気持ち的な負担が全く違う。
シャワーを終え盆栽の雑誌の一ページをクリアしてからベッドに入り目を閉じた。
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