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少女も自分がどこの誰なのか分からない。
だから男に名前を決められて困惑もあったし、多少の拒絶もあった。
ただ、男の笑顔や態度を見てるとどうでも良くなった。
名前がないままでは困るという確かな事実も理解できたので、どうでもいいのであればと受け入れる理由になった。
少女は取り敢えずではあるが自身がアイシャであることを受け入れた。
そうなるとアイシャとしては次に気になるのは男の名前だ。
自分に勝手に名前を付けたのなら自分が勝手に名前を付けてもいいはず。
身勝手ではあるが、先に身勝手なことをされた彼女としてはそれで意趣返しとしたかった。
何より男が自分で勝手に名前を付けてしまう前に付けてやりたかった。
「ポチ・・・シロ・・・・・たま・・・ぶち・・・先生・・・」
アイシャはぶつぶつと名前を上げ始め、男はその意図を理解せず不思議そうに見ている。
視線に気づいたアイシャも一度男を見直してみた。
「猫よりは犬っぽいか・・・」
またぼそっと独り言をいう少女。
どうやら男は猫っぽさより犬っぽさが強いようだ。
さっきの自分の命令で止まった時の印象が強いのか、それとも隣で自分のことを興味深そうに見てくる視線がそう感じさせるのか。
でも変なのになつかれたな。
アイシャは思った。
そして彼女はこれまでの男の印象を思い返してみる。
「・・・どうしよう、顔がうるさいとしか思いつかない・・・」
思い返される男の顔はコロコロ変わって騒がしかったこともあって他の印象を薄めてしまっていた。
アイシャはもう一度ため息をしてから今度は周りを見る。
これを、こいつがやったんだ。
気を失ってからのことは分からない。
でも周りを見れば彼が戦ったのが分かる。
皆殺されるとしか思えなかった状況だった。
何をやっても無駄だとどっかで思ってた。
それでもそこから必死に目を背けて抵抗した。
生きたいと思ってたから。
彼はそれを叶えてくれた。
この後どうなるかは分からない。
でも、少なくとも今この時彼は私たちを助けてくれたんだ。
「決めた」
アイシャは降参の姿勢をとったまま声を上げた。
男は「何を?」とでも言いたいように首を傾げて彼女を見る。
というか実際に口にも出していた。
そんな彼と目線を合わせ、アイシャは彼の名前を口にする。
「バタル、それがあなたの名前」
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