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そして、当時とても夢見がちだった彼は、その夢見た設定に則って断りの返事をしたのだ。
岩崎はぽかんとしていた。
「高校の時のこと、忘れちゃったこともたくさんあるけど、あの時の高山くんの返事だけはいつまでも覚えてるんだよね」
「いや、もう忘れてください」
「ふふふっ。……でも、今の高山くんはあの頃とはちょっと違うみたいね」
「そりゃあ……ね。俺ももう妻も子もいるし」
「そうなんだ。じゃあ、奥さんが夢から目覚めさせてくれたのかな?」
「あはは、違うよ。ん……実はね、二年生の時に告白してフラれたんだ。たぶん、その時じゃないかな」
佑志は今なら笑ってしまえるほろ苦い痛みを思い出す。
まだ自分の設定の中で生きていた佑志は、その設定のままにある女子に告白して、見事にフラれた。
設定のままといっても、心を偽っていたわけではなく、本当に好きだったのだ。
そしてフラれると同時に、それまで自分で鎧のようにまとっていた設定を粉々にされたのだ。
「あの時はホント、自分が何なのかわかんなくなって……。ま、おかげで今の自分があるんだけど」
「うん、わかるよ、その感覚。だって、私も同じだったから」
「……え? どういうこと?」
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