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今日は、そんな彼女の、誕生日だ。
毎年毎年、特に欲しいものなんかないと言う義母の言葉を真に受けて何も渡そうとしない夫に対して、叱りつけるような勢いと幼子に語りかけるような平易な説得を以てお祝いに臨んでいた私は、そういう理由でこの義母の誕生日がとても苦手だった。
夫は、私と何度も話し合った後ですら、
「あんまり高価なものを贈ったら、無駄遣いするなって叱られる」
などとほざいて、義母が好きだというアラレ菓子を手にしていた。
それを見たときは眩暈すらした。
この次元に生きている人間に対して、どう説得すれば『プレゼント』の定義を見直してくれるのか。
擦り合わせのスタート地点がここって、どうしたら良いの?!、と気が遠くなった。
「お前より俺の方が長く付き合ってるんだから、母さんのことは俺の方がよく判っている」
と自信ありげに断言する夫をやんわり矯正していくのが、どれ程厄介で困難だったか。
長男出産以降は私も思うところはあったけれど、それでも、親の誕生日を無視などできなかった。
子どもにとっては祖母だと思えば、尚更だった。
ただ、アラレは論外にせよ、何を贈るべきなのか、私も皆目見当つかない。
また、夫が納得しないものだから予算も低く、それがまたプレゼントの内容の幅を狭めた。
一緒にショッピングモールを巡った時に、
「私、このブランドのカバン(マザーズバッグを小さくしたような、ナイロン製のショルダーバッグ)が好きなのよ」
と恥ずかしそうに可愛く笑った義母を見たときの私の歓喜は、他人になど説明できない。
だからこそ、それを夫に報告した時の
「そんな高いの(?!)買えないよ」
と、笑って両断した夫に対する私の苛立ちは人生でも最大級だった。
義母の誕生日はいつも、当日までの数週間そんな風に揺さぶられ、疲れきって終了した。
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