誕生日

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 夫は、義母から私を守ろうとして、遠ざける目的でイベントを無視しようとしたのか。  また、義母へのプレゼントをけちったのは、報復ですらあったのか。  考え始めると、あれもこれもと、色々な行動に夫の優しさが見えてくる気がする。  私の考えなしな呑気さが、身を呈して庇ってくれていた夫の背を撃つような状態に追い詰めていたのかと思うと、夫に対して心から申し訳なく、居たたまれず、しかしありがたく嬉しかった。  そしてそんな風に穏やかで温かな優しさに浸かることで、義母への感謝も、改めて思い出していた。  私が結婚を決意したとき、私の実母は介護の真っ最中だった。一方は体が不自由で、一方は重大な病気を患って治療を終えたばかり、さらに双方がボケ始めていた鬱症状のある舅姑を自宅に引き取り、働きながらおよそ一人で世話していた。  私の父は、そこまでする必要などないのに母が勝手に頑張っている、というスタンスだった。そしてそれは、決して間違いではなかった。  専門の施設に預ければ、それで済んだ筈だったのだ。  しかし、父の姉妹からの直接的間接的圧力や、祖父母の訴えばかりを一方的に聞くご近所さんや町内を統括するお寺からの誹謗じみた非難を、一身に受けていたのは母だった。母には、祖父母の面倒をみることに意地を見せる理由があったのだ。  ただ当然、意地だけで介護はできない。母の完璧主義は、ごく当然な顔で家族全員を巻き込んでいった。そして、音を上げ知らぬ振りをし始める家族に対して、母親の憤怒と苛立ちは膨れる一方だった。
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