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底辺
握らせられた裸の現金を握りしめ 酷くオンボロなアパートに帰って行けば中には 既に灯りが灯っている。
「来てたん!?」
彩人の顔に パッと笑顔が浮かび畳に座り込んでいる人物の元へと行けば 抱き寄せられて 深い口付けを……
「鉄さん…帰って来たはったん?俺えぇ子にしてたで?」
「みたいだなぁ」
あっ。と思った時には いつの間にか握りしめてしまって くしゃくしゃになったお札を手から持っていかれた。
頭を撫でられ、それから背中をトントンと優しく撫でられる。彩人は相手の胸に顔を埋めて目をつぶった。
「お前は優秀だって言ってた」
「…うん……早く返してまう。」
「嗚呼。そうだな。」
「鉄さん…………見捨てんといてな」
「当たり前だ。」
長々と 頭を撫でたり背中をさすってくれて、それから部屋にあった他の金も持って出ていく男に彩人は酷く幸せそうな様子で見送る。
彩人の部屋には何も無い
ただ、薄っぺらい布団があるだけだ。
寒くても暑くても それだけ。
洋服も最低限しかない。
台所もなければ風呂さえついていないボロいアパートに1人で暮らしている。
時には借金取りもくる。
奴らは、お前にゃ 部屋も布団さえも勿体ない 寝ずに働けと 凄まれる。
しかし、この土地に戻る前は もっと酷かった。本当に塒は無く 少しの仮眠が取れる程度で 熱が出ようが 変な客に当たって怪我を被うが毎日ひたすら 誰かの相手をした。
今の方が随分良くなった。
自分を愛してくれる人間もいてくれる。
そう彩人は思って毎日頑張れる
そう思って過ごしている。
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