音楽のような風

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やっぱり、楽しかったんだ。 私の写真が選ばれて、注目されて、大勢の人達に評価されて、私の一生懸命が認められたようで。 「泣くなよ」 気づいたら泣いていた。 ほんの一筋の涙だったが、沢山のストレスを含んだ、妙に熱い雫が頬を伝った。 祐介が差し出したポケットティッシュをゴメンと言って受け取り、鼻をかむ。 「こっちこそ、悪かった。君から写真と言う趣味を奪うつもりで言ったんじゃ無いんだ。ただ、のめり込み過ぎている君が心配になった、君は何でも自分一人で決めてしまうから…」 言っている祐介の方が辛そうに見えた。 彼の事や他人を頼る事など今まで殆ど無かった、楽観的で悩みの少ないこの自分の性格のせいとも言えたが、人にもっと気を使う、気持ちを大切にする、そんな配慮もきっと、私には足りていない。 「俺さ、転勤の話が出ているんだ、九州支店の副店長」 祐介が毅然として言ったその言葉で、私は気づいた。 栄転おめでとうと思ってしまった。 遠くに行ってしまう事に寂しく思ってしまった。 ちゃんと彼氏だったと気づいてしまった。 確かに愛していると気づいてしまった。 そして- 「君が良ければ、付いて来て欲しいんだ」 即答出来ない自分に。
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