音楽のような風

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目覚まし時計が定刻を告げる。 起きた途端に沸き起こる悩み。 桜はとうに満開になり、春にうかれる世の中とは裏腹に、たどり着けない答えに足取りも重い。 通勤中も、職場でも、気付けば考えてしまっている二つの問題に何をやっても落ち着かない。カメラも触っていないし、祐介に会うのも避けている気がする。 だけど、部署は違えども同じ職場、取り繕った笑顔では彼は騙せない、ほんの一言交わした挨拶だけでも私の裏側まで見透かされてしまう。全部、見られたく無い所まで。初めて会社に行きたくないと思った。 人と接する営業的な仕事よりも、事務処理的なデスクワークの方が、今は楽だと気付いた。 同僚から祐介の栄転を問われて我に返る、どうやら辞令が下りたらしい、まだまだ先だと言っていたのに。 程なく、祐介からメッセージが入った。 明日会いたい 花見をしないか 溜め息って自然に出るものだと初めて知った。 会いたいけど、会いたくない。 断る理由も無い。 祐介に話さなくてはならない、海外レポートの仕事の事を。 時が止まれば良い。 切に思ったが、一ヶ月でも一年だろうと、或いは十年でさえ時間と言うヤツは必ず過ぎてしまう、仕事をしてようが、遊んでようが、篭もっていたって、抗うすべは無く、誰もが必ずに。
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