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「秋津先輩、奈々先輩は今日もお休みですか?」
「ああ、今日は……」
奈々が三年まで帰宅部だったのには理由がある。秋津のピンチを見兼ねて助けてくれたものの、やはり毎日部活に顔を出すことは出来ないようだ。
毎日奈々に会えないと知って落胆した新入生も大勢いたが、割と真面目に部活に取り組んでくれている。
部活動紹介後、奈々達三人は、木陰で三沢に膝枕をされ、呆然としている秋津を見つけた。三沢の満足げな表情を見て、何があったのかを理解したのは平間だけだ。
「秋津、体調が悪かったのか。気が付いてやれなくて、すまない」
堀内は申し訳なさそうに頭をさげ、その隣で奈々は舞台での話を興奮気味に語っている。
「……大丈夫?」
平間の案じたような問いに、それまで呆然とした秋津が反応した。
「ああ、大丈夫だ。未知の世界の扉を開いた気がする……」
「……うん」
「すごかった……」
「だろうねぇ」
嫌がってはいない様だと胸を撫で下ろし、平間は笑った。堅物の親友にも、とうとう春が来たらしい。
あれからひと月。水泳部にはたくさんの入部希望者が殺到し、仮入部期間を経て残ったのは、約半分だ。それでも、辞めた仲間達の人数は軽く超えている。
秋津の心配事はこれで無くなった。……筈である。
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