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プールサイドで念入りに準備運動を行い、秋津はふと顔を上げた。三沢と目が合ったような気がする。
「秋津先輩、顔が真っ赤ですけど大丈夫ですか?」
「あ、ああ。大丈夫」
ばくばくと早鐘を打つ心臓に、急上昇する体温。自分は一体どうしてしまったのだろう。だが検討はついている。おそらく、これは……。
「恋ですね」
「……はっ? なに、なにが」
隣でうんうんと一人頷く後輩に、秋津は動揺を隠せなかった。
まさか三沢とのことがバレているのだろうか……いや、だがあれから特になにも……。
あの日から、三沢の様子がおかしい気がするのだ。半裸の男子生徒を見ても騒がないし、始終ぼんやりとしていて、うわの空だ。以前のように、秋津に近付いて来ることもない。
水泳にしか興味が無かった秋津には、こんな時どうすればいいのか分からなかった。
「え? だから、三沢先生ですよ。誰か好きなひとが出来たんじゃないですかね。なんか急に赤くなってジタバタしてるし、変な本読んでるし」
「変な本……?」
「ほら、あれ、三沢先生が手にしてる本。僕、目が良いのが自慢なんです。ここからでもタイトル見えますよ? えーと、今日の本は……『彼の気持ちを鷲掴み! 恋愛駆け引きの極意』ですね」
でも彼ってなんですかね? 彼女の気持ちを掴まないと、と首を傾げる後輩に秋津は曖昧に頷いた。
やはり、顔が熱い。今にも発火しそうだ。
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